今から30数年前、家業を継ぎ、6年が過ぎたころ、自分はどのように経営をしたらよいか、と思い悩み考えていた時に、青年部主張大会のお話を頂きました。
ちょうど自分の考え・経営理念をまとめる意味でも、またいろいろな人に評価してもらうという意味でも、大変すばらしい機会を与えて頂き、誠にありがとうございました。
その時の経営理念は、若干の表現は変わっても根幹をなす部分は変わっていません。
これからも生活美学者のために精進してまいりたいと思います。その意味でも、ホームページに掲載させて頂きました。つたない文章ですが、お読みいただけたら幸いです。
岡本喜雄
※青年部主張大会埼玉県大会で優勝し、東京通産局管内(1都10県)で優勝。当時は全国大会はありませんでした。
今は、全国から集まり「青年部活動に参加して」という題で競いますが、当時は「私の経営理念」と「青年部活動に参加して」の選択制でした。
今も素晴らしい青年の主張を聞くたびに、私も一生勉強、一生青春で頑張って行きたいと思います。
私の経営理念
昭和60年度東京通産局管内(1都10県)青年部出張大会優勝
東松山市商工会青年部 岡本喜雄
私の住む東松山市は埼玉のほぼ中央に位置し、埼玉県総合振興計画の中でも比企丘陵広域都市構想の中核都市として位置付けられ、国立森林公園の建設、工業団地の造成など着々とその計画は進み、人口も7万人と順調に発展を遂げて参りました。
また、比企地区の中心として古くから行政経済の中枢として今日までその基盤を守っています。そして首都圏50キロメートルの衛星都市として住宅化が進み、数年後には10万都市を目指しております。
私の店は昭和6年に創業し今年で55年を迎えます。当初は家具を製造販売致しておりましたが、創業30年目に小売業として事業転換致しました。その後日本住宅公団の2DKに代表される洋風化に端を発し、高度経済成長時代の着工新設住宅件数の伸びに支えられ、さらには団塊の世代と言われた年齢層の結婚ブームによって加速され、順調に発展を遂げて参りました。しかし、石油ショック後の低成長時代を迎え、家具・インテリア業界も厳しい環境に置かれています。
ところで、今よく売れている本の中で企業の盛衰について書かれた物がございます。どんなに栄えている企業でも30年が限度であるという事です。そうしますと、産業構造の流れと言うものは事業転換の歴史であると言えましょう。
すなわち、どんな成長産業でも事業転換をしなければ存続できないという事です。スーパーマーケットでは量販店から質販店へ、電器業界ではオーディオからAVの時代へ、住宅産業でもハードからソフトへ、消費者と言う言い方も生活者と言う言い方になり、産業構造及び消費者意識も大きく変わろうとしています。
そして、それは若い人々、ニューファミリーが新しい生活の仕方を考えるようになってきたからです。そのきっかけは余暇時間が非常に増えてきたことでしょう。週休二日制とともに長期休暇を利用して滞在型のレジャーを楽しむ人も増えて参りました、仲間を呼んでパーティをするという試みも増えてきました。
そうしますと、単なる応接セットと言う物を所有するというのではなく、もっとそれを活かしていく、つまり事を楽しんでいく習慣が出てきたのです。
食品の家庭における購入金額は年々減少していますが、一方、食事という事への支出は増えてきています。そういう意味で、これからは物をアレンジメントとし、あるいはシステム化して、あるいはコーディネーションして、それをいかに楽しんでいくかという事がより重要になってくるでしょう。
そして、事を楽しむという事になりますと、単なる食品と言う、そこにおいしいものがあるというのではなく、その皿、そのテーブル、花、そして総合的なインテリア、あるいは音楽的な空間まで含めて、トータルに生活を見直していく事が求められてくる事です。そして、消費者が一人の生活美学者として室内空間を考えていく、そのような時代がやってくるのではないでしょうか。
そういう意味では、これからインテリアというものが質的な展開を迎える訳ですが、全体的に見ましても、ファッション・グルメというものが、衣・食において鋭く展開し、今や日本のファッションデザイナー、日本のグルメというものが世界の中で評価される時代を迎えています。
そして、必ずや日本のインテリアという産業も世界の檜舞台で評価される時代がやってくるでしょう。また、それだけの伝統を持ってきたと思います。
ところが、私の周りを見ますと、インテリアに対する認識というものはまだまだ低いように思われます。それは建設・設計関係の方を含めて、インテリアに従事している人があまりにもハードに固執して、ソフトの面が弱いのではないでしょうか。
先日、埼玉の「新しい住まいを考える会」で、住まいの主役の主婦の意見を最大限に尊重し、住みよい家を設計し、着工しようという事で、世間の注目を浴びていますが、使う人・生活する人が使い易い家を作るという事は当たり前の事なのです。それが新聞に載ること自体、我々住宅に関わるものが考え直さなければならないのではないでしょうか。
中国の孟子は「居は気を移す」と言いました。住まいが住む人の性格まで変えてしまうという事です。また、イギリスの政治家チャーチルは「人は住まいを造り、住まいは人を造る」と言いました。このような古今東西同じ格言がありますが、住まいというものは単なる寝食の場ではなく、精神形成に様々な影響を与える環境であるという事です。
このように住まいと人間との関係は、インテリアと人間との関係であります。すなわち、住まいの構造の内、人間の知覚・感覚・行動などに直接かかわる部分がインテリアだからです。インテリアを辞書で引きますと、内部・内面・室内と出ていますが、本当は人間の内面、精神的な面を良くすることが、インテリア本来の意味なのではないでしょうか。
私は一昨年、家具・インテリア業界では初めての通産大臣認定のインテリアコーディネーター資格試験に合格致しました。
なぜインテリアコーディネーターという職種がこれから必要であるかと言いますと、今現在住宅関連商品の裾野は極めて広く、また施工方法・品質・用途・機能・柄・デザインと多方面にわたっており、生活者が選択しようとしても、情報が簡単に得られない環境に置かれています。
そこでこれら多くの住宅関連商品の中から、住み手の住まい方に合ったものを選択し、アレンジメントし、システム化し、コーディネーションする人が必要になってきたのです。
そこで、私は次の二点をこれからの経営課題としていくつもりです。
まず第一に、家具・カーテン・照明というような縦割りの考え方ではなく、住まいという横割りの考え方で、お客様のニーズに対応していきたいと思うのです。
すなわち、横割りの考え方に基づき、トータルでインテリアを考え、業種間の隙間を埋め、業種別に持っているそれぞれのノウハウをお客様の意識・感覚・ニーズに合わせて結びつけるインターフェイスになる事なのです。
そして、インテリアコーディネーターの役割は、単なる商品と商品をコーディネートするだけでなく、お客様と商品、そして、業種別に持っているノウハウをもコーディネートする事であると自分なりに解釈しています。
自分一人の知識というものは限られていますが、専門職の人に協力してもらうことにより、1プラス1が3にも、5にもなると思うからです。
次に、第二点として、現在、インテリアに関する情報の量は膨大であり、生活者自身のインテリア感覚も非常に高くなっています。
そして、住まいの空間をトータルで考え、快適さを自分なりに演出しようという欲求も持っています。それに対して、その潜在需要を掘り起こすと共に、住まいの事なら、あの店に行けば必ず欲求をかなえてくれるというストアーロイヤリティーを持つことであると思います。
幸い私の店には、インテリアコーディネーター1名と、女性のインテリアアドバイザー5名がおります。このことをもっとPRし、これを武器に他店との差別化を図ると共に、お客様により快適な住まいづくりのお手伝いをしたいと思っております。
以上2点を経営課題とすると共に、一人でも多くの生活美学者のお手伝いをしたいと思います。
ファッション・グルメの人が増えれば増えるほど、次に来る欲求は、衣・食・住の住であると思います。その住に関わるものとして、日々研鑽をつみ、お客様の欲求に応え、より快適で、安全で、健康的な住まいの提案をしていきたいと思います。そして、そのことがインテリアコーディネーターとしての私の使命であると考えるからです。